第50回 CSRS(San Diego)参加報告
50th Annual meeting of Cervical Spine Research Society (San Diego)参加報告です。
第50回CSRSに参加して 品川志匠会病院 光山 哲滝
2022年11月16-19日にサンディエゴで開催された第50回CSRSに5分間のpodium presentationに採択され発表してきましたで、その参加報告をいたします。過去3回のJPSTSSで首下がり症候群についての演題を発表してきました。他施設からの演題や総合討論から得られた考察と学会誌での論文報告(J. Spine Res. 12: 917-925, 2021)、さらに当院で蓄積した症例から、Surgical Treatment of Dropped Head Syndrome: Range of Fixations and Postoperative Complicationsとして応募しましたところ、幸いにもDeformityセッションで採択されました。そのような経緯もあり、JPSTSS学会から参加報告の提案をいただきました。理事長の熊野潔先生、副理事長の山崎昭義先生、次期会長の渡邉健一先生に感謝申し上げます。
【左】第50回CSRSプログラム表紙 【右】海上からのサンディエゴ市街地
※左端のツインタワーが学会場のManchester Grand Hyatt San Diego
頚胸椎病変による首下がり症候群に対して手術治療を行った連続29例を後方視的に検討し、Instrumentation failureや嚥下障害などの合併症例などをもとに考察を加え、結語として主に以下の点を報告しました。
① 仰臥位で矯正可能であれば、首下がり姿勢を大きく矯正維持するために多椎間の頚椎前方固定術と頚胸椎後方固定術が望ましい。
② 過度の頚椎前彎形成は術後嚥下障害の危険があるため、術中に頚椎前彎の頂点がS-line(C1前弓中央を通りMcGregor lineに垂直な線:Kaneyama S. Spine 2017;42:718-25)の後方に位置するようにに頚椎アライメントを調整する。
③ 後方固定の頭側端はC2あるいはC3(C3,4で両側にPedicle screw挿入し、かつ頚椎前方固定術併用)、尾側端は少なくとも上位胸椎までとする
④ Rigidな変形や再手術例に対しては、C7あるいはT1でのPSOを行う。 事前に口演発表の練習はしていましたが、16枚のスライドで発表時間は6分を超えてしまいました。英語での発表を考慮して、もう少しスライドを絞り、結語に至る部分をしっかり強調すべきでした。そして、セッション最後での総合討論で、3名の先生方から以下の質問をいただきました。自分が理解した英語の範囲で要約して記載します。
事前に口演発表の練習はしていましたが、16枚のスライドで発表時間は6分を超えてしまいました。英語での発表を考慮して、もう少しスライドを絞り、結語に至る部分をしっかり強調すべきでした。そして、セッション最後での総合討論で、3名の先生方から以下の質問をいただきました。自分が理解した英語の範囲で要約して記載します。
- Q1「Take home messageは?」Toronto大学のM. Fehlings先生から
- 「首下がり姿勢を大きく矯正維持するため、基本的には多椎間ACDFと上位胸椎までのPLFを推奨します」。(過度の頚椎前彎形成は術後嚥下障害の危険性があるので避けるべき、と付け加えるべきでした)
- Q2「首下がり症候群の原因として様々な病態(sarcopenia、movement disorderなど)があるが、それらに応じた治療方針は?」ModeratorであるUCSFのC. Ames先生から
- 「パーキンソン病などの首下がり症候群の原因疾患の除外診断を行ってから、脊椎病変として治療を行い、装具療法や理学療法などの保存的治療で改善しない場合に手術治療を検討します」。(表情からは質問の意図に正確には答えていない印象)
- Q3「病態に応じた術式選択は?」(病型に応じた頚椎変形に対する手術治療についてInternational Spine Study Groupからの論文: J. Clin. Med. 2021, 10, 4826を思い出して)
- 「頚椎から上位胸椎の病変であれば多椎間頚椎前方固定術と頚胸椎の後方固定術、病変が頚椎に限局すれば頚椎での前方後方固定術、PJfxなどによる上位胸椎の重度後彎が原因であれば胸椎の骨切り術が必要になると考えます。」表情からは、まだ物足りない印象。セッション終了後に直接質問の意図を聞いたところ、質問の趣旨は病態に応じた手術法についてでした。最後には採択されたことにConguratulationと言っていただきました。「胸腰椎病変によるものであれば胸腰椎の矯正固定術でT1 slopeを小さくする、rigidな変形であればC7かT1でのPSO、Parkinson病などの原因疾患があればその治療で改善が期待できる」を追加して返答すべきでした。療で改善しない場合に手術治療を検討します」。(表情からは質問の意図に正確には答えていない印象)
- Q4「過度の頚椎前彎形成が嚥下障害の危険因子であるならば、首下がり症候群の手術治療でどこまでの矯正目標とすべきか」。韓国から参加した先生から
- 「患者さんを仰臥位にして神経症状のない姿勢と仰臥位でのCT、MRIでのalignmentを参考にします」。 (頚椎前彎の頂点がS-lineの後方に位置するように頚椎alignmentを調整して固定術を行うことも言及すべきでした。)
Deformity sessionのプログラム
発表、質疑応答ともに十分には伝えられなかった思いです。英語でのpresentation, discussionをもっと経験する必要性があると改めて実感しました。Deformityセッション10演題のち7演題がNew York大学とその関連施設からでした。そのうちの一人に頚椎変形手術の論文を多数報告しているP. Passiaa先生が会場で前の席にいらしたので、セッション終了後にお声掛けしてみました。幸いにも、頚椎変形症例の相談などできるようにメールアドレスを交換しました。その際に、「術前の嚥下訓練はするのか」と質問され、「術前嚥下機能評価を行っているが、明らかな嚥下障害例はなかった」と返答しました。以前に視聴したSeattle Science Foundation(YouTube)によるDropped head syndromeの手術治療の動画に、術前にPEG(胃ろう)を挿入する発表があったのを、その後に思い出しました。機会があれば意見を聞いてみたいです。また、2演題で頚椎変形手術におけるUIVはC3が最多であったとの報告があり、以外にもC2ではなかったのが印象的でした。
発表スライドのConclusions
演題の採択はdouble-blindで決まるようで、医学生の発表もありました。彼らの発表は論点がしっかりして、かつ高名な先生方に交じっても堂々としており、自分が医学生の時には想像できない光景でした。また、MCID (Minimal clinically important difference)が得られたかどうかで治療成績を評価する報告がいくつかありました。MCIDとは、the smallest change in an outcome measure (PRO: patient reported outcome) that reflects clinically meaningful improvement to patientsと定義されています(JNS spine18:154-60, 2013)。今後の臨床研究で、MCIDの概念が普及するかもしれません。そして、面白かったのがReception会場で開催されたLive debatesでした。Early myelopathy-To operate or notとArthroplasty vs Fusionに関して、賛成と反対の立場からの口演があり、それを参加者がビールやワインを片手に聞いていました。Poll anywhereというアプリを使って、発表の前後に参加者がどちらの立場を支持するか投票を行い、リアルタイムで結果が大画面に表示されました。ユーモアを交えながら多数の論文を引用してお互いに論破するdebateは期待どおりでした。以前に何回か参加したSPINE SUMMIT(Annual meeting of the AANS/CNS Section on Disorders of the Spine and Peripheral Nerves)でも最終日に同様のセッションがあり、いつも楽しみにしていたのを思い出しました。
学会場入り口にて 左から玉井先生、土肥先生、三原先生、光山、三浦先生
日本からは10名以上の先生方が現地で口演発表されていました。初日のglobal welcome receptionで日本から出席している先生方と知り合いになることができました。CSRS Asia Pacific Presidentである三原久範先生(横浜南共済病院)、高橋宏先生(筑波大学)、土肥透先生(東京女子医科大学)、牧聡先生(千葉大学)、玉井孝司先生(大阪公立大学)、三浦正敬先生(千葉大学)とHospital for Special Surgeryに留学中の朝田智之先生(筑波大学)です。その後、学会場ホテルの向かいにある映画トップガン(1986年)で使用されたカンザスシティBBQで一緒に食事をさせていただきました。11月の夜は風が冷たく、屋外ではヒーターがついてました。先生方には、学会期間中に大変お世話になり、また心強かったです。この場を借りて御礼申し上げます。また、高橋先生は「Therapeutic Effect of Immunoreceptor CD300a Blockade for Acute Spinal Cord Injury」でSpinal cord injury grant awardを受賞されていました。おめでとうございます。
カンザスシティBBQにて 左から牧先生、光山、三浦先生、高橋先生、三原先生、土肥先生、玉井先生
近年、注目を集めている言葉にセレンディピティ(Serendipity)があります。「偶然の幸運」や「遇察力」などと訳されていますが、英英辞典では、Serendipity is the luck some people have in finding or creating interesting or valuable things by chance. (Collins COBUILD)と定義されています。私は、研究会の懇親会で偶然に知り合い、友人としてお付き合いさせていただいた梅林猛先生(現.東京脊椎クリニック院長)の紹介で、品川志匠会病院に赴任しました。ちょうど手術件数が増加している時期の入職であり、大田快児先生(志匠会病院理事長)のもとで、梅林先生や河野龍太先生(品川志匠会病院)らとともに数多くの手術症例を経験する機会に恵まれました。今回の発表も、自分自身の症例に大田先生や梅林先生、河野先生の症例を加えてまとめたものです。治療に携わった病院職員も含めて、あらためて感謝申し上げます。幸運にも、首下がり症候群の治療例を蓄積する機会を得て、JPSTSSなど学会での討論で得られた考察から今回の発表をまとめ、oral presentationとして採択されました。今後は、所属や診療科にかかわらず、後進の脊椎脊髄外科医の先生方に、同じような機会を提供できればと考えています。
【左】ウニ(大きく甘い!)の軍艦巻き 【右】ロブスタースープ(20分並びました)
もちろん、学会の合間に、San Diegoを満喫してきました。シーフードが想像以上に美味しかったです。ロブスターが旬であり、ヨットクルーズツアーに参加した際に船長からお薦めのお店を教えてもらえました。また、全米で一番美しい野球場と評価されるPETCO Parkの見学ツアーやアイスホッケーの試合観戦にも行ってきました。次の機会があれば、ぜひゴルフをしてみたいです。
【左】ホームベース裏からのPETCO Park 【右】アイスホッケー試合会場
国際学会の醍醐味として、英語での発表討論、海外の先生方との意見交換、新たな先生方との出会い、現地での観光などがあり、今回は十分に実りのある学会参加でした。また、CSRS-AP2023が三原先生を会長として、2023年3月9-11日にパシフィコ横浜で開催されます。国内で国際学会に参加できる良い機会と思いますので、特に若手の先生方には参加していただきたいと思います。